スクールカウンセラーが不登校の相談を受ける機会が増えています。
徐々に休みがちになる、ある日突然登校しなくなるなど、不登校の状態はさまざまです。
不登校について、文部科学省は以下のように定義しています。
〇〇に当てはまる数字や言葉は何だと思いますか?
<答え>
30、情緒、社会、したくてもできない
「情緒って、何?」、「社会的ってどんなこと?」などの疑問がまず浮かびませんでしたか?
「情緒」は、いろんなものや出来事を見たり聞いたりしたときにわき起こる感情のことです。
感じ方なので人によって違いますし、そのときの自分の気分や周りの雰囲気に左右されやすいものでもあります。
「社会的」は、家族関係や家庭の雰囲気、学校生活、友だち関係など子どもにとって影響の大きい環境のことです。
最近は、新型コロナウイルス感染症による休校や分散登校など、社会全体に与えている影響も含まれると言えます。
注目したいのは、「年度間に連続又は断続して30日以上欠席」という部分です。
例えば、新学期が始まる4月から翌年3月末までの12ヶ月間、夏休みなどを考えずに1か月あたり3日欠席すると、
12×3=36日なので「不登校児童生徒」ということになります。
スクールカウンセラーとして対応していると、1週間に1日くらい休めれば登校できると言う児童生徒がいます。
でも、1ヶ月は4週間ほどありますから週休3日は難しいのが現状です。
あえてアドバイスするなら、「休まないで、遅刻か早退にしない?」という感じです。
平成3年(1991年)~ 平成3年(1991年)の不登校児童生徒数のグラフです。
増えたり減ったりを繰り返しながらも、人数はかなり増えてきています。
スクールカウンセラーは平成7年(1995年)から導入が始まりました。
その年以降にググっと上昇しているのは皮肉な感じですが、視点を変えれば、
スクールカウンセラーが学校に派遣されるようになったことで不登校に関する認識が高まったとも言えます。
もう一つ、平成24年(2012年)以降の上昇が目立ちます。上昇の理由ははっきりしません。
前年の平成23年に滋賀県大津市の中学校でいじめ事件が発生し、翌年にかけて広く報道されました。
その後、平成25年には「いじめ防止対策推進法」ができました。
推測にすぎませんが、不登校の原因としていじめがあるかもしれないという意識が高まり、
無理に登校させようとしないケースが増え始めたのかもしれません。
なお、令和元年度は、小学校:53,350人(0.8%)、中学校:127,922人(3.9%)とさらに増えています。
文部科学省の「不登校児童生徒への支援に対する基本的な考え方」(令和元年12月25日通知)には、不登校児童生徒や家庭への支援や学校の取り組みについて書かれています。
子どもが不登校になると、保護者は「何とか学校に行かせないといけない。」と焦って、
学校の先生やスクールカウンセラーに相談します。
しかし、これを見ると、” 目下の登校だけを目標にせず、まず疲れた心を休めて、長い目で自立を見守る ”
という長期的な捉え方が示されています。
カウンセリングで言うところの ” 自己理解 ” を深めることを重視しています。
実際には、スクールカウンセラーが不登校児童生徒と会って話ができるときは、本人が自分の状態をどう思っているか、
これからどうしたいとおもっているかなどを丁寧に聞き取ることが対応の中心になります。
いっぽうで、スクールカウンセラーが本人と会えないこともしばしばです。誰とも会いたくないと言って部屋から出ない、
とにかく寝ている、一日中ゲームや動画で過ごしているなど、外とのかかわりを避ける場合や病的な状態になる場合、
保護者もどうしていいかわからなくなって時間ばかり過ぎていくということになります。
特に高校生は不登校から転学や退学になることが多く、学校以外の医療や公的支援などといかにつなげていくかが重要です。
いっぽうで、家庭への支援については、保護者を精神的に支えることが重要です。
子どもが不登校になって保護者だけがスクールカウンセラーのところに相談に来ることがあります。
不登校前後の本人の様子や、それ以前までさかのぼって話を聞くこともあります。
保護者相談では、「学校に行かせるために具体的に何ができるか知りたい。」という内容になりがちです。
また、「他の子は普通に登校しているのになぜウチの子は学校に行けないのか。」という嘆きも聞きます。
保護者はとにかくつらい気持ちでいっぱいです。先が見えないもどかしさで精神的に疲れています。
そのような心境を受け止めながら、あきらめないように話したり励ましたりします。
本人の現状を否定せず本人の生きる力を信じて待つという、保護者だからできるけれど、保護者だから難しい
アドバイスをしなければならないこともあります。
長期化した場合は、担任と同行訪問したり、電話で話を聞いたりするなど、
スクールカウンセラーはいろいろな形での支援に柔軟になる必要があります。
不登校児童生徒について、必ずしも学校への登校を目指さないとしても、学習の保証は必要です。
そのことは、平成28年にできた「教育機会確保法」にはっきりと示されています。
教育機会確保法により、不登校支援は原因論からの脱却がはかられたと言えるのではないでしょうか。
「なぜ、どうして?」と問うのではなく、「これからどうしよう?」と話すことが大事です。
他の児童生徒と足並みを揃えることではなく、かけがえのない1人がどう生きていくかを考える機会として、
不登校を捉えるということです。
不登校の子どもたちの中には、「学校の雰囲気が合わない。」、「もっと自分の自由に時間を使いたい。」などを訴える子どもがいます。
大人は「ここはダメだ。」と思ったら自分に適した環境を探して選ぶことができます。しかし、子どもは特に義務教育の間は他の選択肢が無い場合がほとんどです。
何とか登校できるけれど教室にいたり他の児童生徒と接したりしたくないという子どもには、居場所として相談室や保健室、図書室などを用意しています。いわゆる「別室登校」です。
登校自体が難しい子どもたちを受け入れている場所があります。
教育支援センター:いわゆる適応指導教室で、学校以外の場所や学校の余裕教室等で学校復帰を支援する施設です。
教育委員会などが設置し、児童生徒の在籍校と連携しながら、学習やレクリエーション、個別カウンセリングなどを
行います。
不登校特例校:不登校児童生徒の実態に配慮して特別に編成された教育課程に基づく教育を行う学校です。
令和3年時点で17校あります。
フリースクール:主に個別の学習、体験活動、カウンセリングなどを行う民間団体です。平均して月額3万円ほどかかり、
ボランティアスタッフが関わっているところが多くあります。
ICTを活用した学習支援:自宅でICT等を 活用した学習を行った場合に、一定の要件を満たすと出席扱いになることが
あります。これまではわずかな人数でしたが、新型コロナ感染症の影響でGIGAスクール構想が急に現実味を帯びています。
(Global and Innovation Gateway for All)
多様で選べるのが当たり前になるにはもう少し時間がかかりそうですが、教育機会は増えつつあります。
不登校の理由がはっきりするまでには時間がかかることがほとんどです。原因を探すより、その子どもの先行きを考えることが大事です。
不登校と呼ばれるようになるまでは、登校拒否という言葉が一般的でした。
自らの意志で拒否しているという捉え方だけではなく、「不」=否定、つまり何らかの理由があって「登校」を受け付けない状態というふうに、子どもが置かれている環境への視点が加わったと言えます。
本人の中に存在する要因(原因)として、以下のようなものが考えられます。
認知能力:自分の身の回りで起こることをどう受け止めるかという、物事の捉え方です。
心理能力:心の働き方、すなわち感情や気持ちの状態と、それらの処理の仕方です。
身体能力:体全体の自然な働きだけでなく、意識して動かすことも含まれます。
社会性 :人間関係や集団における振る舞いなど、生活していくなかで使う方法です。
興味関心:気になったり、やってみたいと思ったりする対象です。
感覚面 :物理的な刺激(光、音、接触など)と、それを受けて感じることの両方です。
こうやって見てみると、それらのどこかに困難を感じることは誰にでもありそうです。
それなのに、発達の特性や障害などがあるから不登校になっていると指摘される場合は、本人だけでなく周囲もかなり困っていることが多いようです。
いっぽう、環境要因には、子どもが生活する家庭やその構成メンバーである家族と、子どものもうひとつの生活の場である学校全体や学級があります。
家庭に独特の考え方や家族関係は子どもの考え方に大きく影響し、外から立ち入れない部分があるのが難しいところです。また、学校には校風や地域性、教職員の考え方やり方など、もし子どもが受け入れにくいと思っても働きかけが難しいところがあります。
実際には、2つの要因が重なっていることが多くあります。
なんとか原因を突き止めようとするのではなく、子どもには不登校にならざるをえなかった要因があり、それは本人にも意識しきれないところがあるのです。
スクールカウンセラーには、不登校の子どもの状態を見極め、周囲ができることを考え伝えていくことが求められています。