トピックス②:学校不適応

 

発達障害という言葉が広く知られるようになりましたが、学校不適応を訴える子どもの状態を発達障害に当てはめるだけでは、ひとりひとりの豊かな個性を見逃すことになりかねません。

 


困っている子ども

 

学校不適応を訴える子どもたちは、学校でどのように困っているのでしょうか。

 

 

ちょっとしたことですぐにキレたり、いつもイライラしている子どもがいます。周囲からは「なんでそんなことで?」とか、「いつも不機嫌そうで怖い!」とか思われていることがあります。

 

でも本人は、すぐにキレてしまう自分が嫌だったり、もっと楽しく過ごしたいのにそうならない自分自身に苛立ちを感じたりしています。

 

 

仲良くしたいと思って近づいたのに引かれたり、ふとしたタイミングに自分だけ浮いている感じに気づいたりして心が折れてしまう子どもがいます。周囲からは、「変なヤツ!」とか「空気よめないの?」とか見られていることがあります。

 

でも本人は、友だちを作るのをあきらめていたり、周囲になじめず孤独感でいっぱいだったりしています。

 

 

音や光の刺激が苦手だったり、言葉の意味をつかむのが苦手だったりする子どもがいます。周囲からは「驚きすぎ!」とか、「え、マジで?」とか思われていることがあります。

 

でも本人は、どうも自分は周囲とは違うらしいと悩んだり、自分だけわからないのはバカだからと自信を失ったりしています。

 

 

 

机の周りに持ち物が散乱していたり、自分用の棚があふれそうになっている子どもがいます。周囲からは「だらしないよ!」とか、「ちゃんとしまって!」としょっちゅう言われています。

 

でも本人は、どれが自分の持ち物か区別できているし、棚にも入れているし、自分のどこがダメなのかわからずにいます。

 

 

しょっちゅう忘れ物をしたり、持ち物を無くしたり、宿題や課題をどんどん溜め込む子どもがいます。周囲からは「また!」とか、「計画的にやりなさい!」と注意を受けてばかりいます。

 

でも本人は、わざと忘れたわけではないし、持ち物が無くなるのは悲しいし、宿題や課題をこなそうと努力しているのに追いつかないし、これ以上何ができるのかわからずにいます。

 

 

いつもナナメに座っていたり、授業中に歩き回ったり、手や体が不思議な動きをしている子どもがいます。周囲からは「落ち着きがない!」とか、「怪しい動きをしている。」とダメ出しされます。

 

でも本人は、ナナメに座ったり歩き回ったり手や体が動いている方が先生の言うことが頭に入ってくるのに、注意されると集中できなくなります。

 

 

先生や友だちが話しているとすぐに割り込んだり、急に違う話をしはじめたりする子どもがいます。周囲からは「ちゃんと聞いてから話しなさい!」とか、「今その話?」と煙たがられがちです。

 

でも本人は、聞いているから話したいし、自分の中では話がつながっていたりするので、周囲がなぜ自分の言うことを聞いてくれないのか不満でいっぱいになります。

 

 

 

文章を読むのがたどたどしかったり、書いた文字がゆがんでいたり、漢字がなかなか覚えられなかったり、計算が苦手だったり、努力しているのに身に付かない子どもがいます。周囲からは、「なんでできないの?」とか、「なまけているのか!」と怒られてばかりいます。

 

でも本人は、一生懸命に文字をたどり、丁寧に書き、何度も漢字を書いて、計算を繰り返しているのにどうしてもできず、自分はみんなと違ってどこかおかしいのではないかと感じています。

 

 

勉強は好きではないし苦手だけど、学校では友だちと楽しく過ごしていたり、逆に物静かでおとなしい子どもがいます。子どもがいます。周囲からは「普通。」とか、「あんまり。」とあまり意識されずにいます。

 

でも本人は、みんなについていこうと勉強も運動もがんばっているし、わからないところはみんなの様子を見て必死に真似しようとして、毎日とても疲れています。

 

 


苦しんでいる子ども

 

子どもは、活動範囲が狭く人間関係の経験も少ないため、自分の身の回りで起こっていることをどう受け止めたらいいか、あるいは受け止めた物事を自分なりにどのように意味づけしたらいいのか、ひとりで悩み苦しんでいることがあります。

 

また、語彙力の不足でそれらの悩み苦しみを上手に表現できないまま、モヤモヤした気持ちを抱えていることもあります。

 

 

子どもの大半は、学校にいるとき以外の時間を家族と過ごしています。

家族を構成するメンバーや相互の関係は様々ですが、コミュニケーションを取ったり一緒に行動したりしながら子どもは成長します。

 

その家族の状態が変化するとき、子どもに大きな影響を与えることがあります。

 

例えば、父母の不仲や離婚・再婚、それにともなう家族を構成するメンバーや住まいの変化などは、子どもにとっては精神的に大きな負担になることがあります。

 

あるいは、祖父母と父母の間など、世代間で子育てに対する考えがすれ違う場合、祖父母や父母が互いにストレスを感じるだけでなく、子どもも同じ程度にストレスを感じます。

 

いっぽう、転居にともなう環境変化もあります。新しい学校や友だち、地域の様子など、子どもがなじむまで時間がかかることがあります。

 

学校不適応を訴える子どもの中には、家族の気持ちや家庭環境の変化を敏感に察知して大人が想像する以上に気を遣い、家庭の中でも外でもストレスを発散できず、学習や学校生活への意欲や希望を持てなくなっている場合があります。

 

 

 不登校ではないけれど、学校生活になじむのが難しい子どもがいます。

 

「たくさん人がいるところにいるのが嫌。」

「時間割通りに行動するのが好きではない。もっと自由に過ごしたい。」

「他のみんなのように勉強や運動をするのが苦手。」

個別に見ると能力は低くないのに、学校で過ごすこと自体がストレスというわけです。

 

学校では、担任の先生だけでなく学年全体で考えて支えよう、あるいは管理職を含めて学校全体で支えようという考えがだいぶ浸透してきました。チーム学校です。

 

チーム学校には、教職員だけでなく、スクールカウンセラーや子どもたちの支援のために配置された人員が含まれます。また、必要に応じて、児童相談所や子どもの支援機関などの専門性の高いスタッフとの連携も行われます。

 

 


周囲も困っている

 

クラスに学校不適応を訴える子どもがいると、周囲もいろいろ困ることがあります。

 

担任の先生はとても忙しくなります。授業でも生活指導でも、全体に同じように教え同じように成長するよう願っています。「自分のクラスだから自分で何とかしなければならない。」という強い責任感から、落ち着きのない子、騒ぐ子、授業についていくのが大変な子というふうにバラエティに富んだ個性を発揮する子どもには、他の子ども以上に声をかけたり、前の方に座らせて手伝ったりします。

  

周囲の子どもたちは、クラスの雰囲気がザワザワしたり、うるさかったりするとストレスを感じます。担任の先生が特定の子どもに手を取られているのを見ると、遠慮して言えないことができたり、少しうらやましかったりもして、欲求不満がたまります。

  

保護者は学校の様子はよくわからなくても、手がかかったり育てにくいと感じることが多かったり、家庭での子どもの状態に困っていることがあります。トラブルが多いとか、忘れ物をしないように気をつけてあげてほしいなど、学校から連絡をもらうたびに、自分の育て方が悪かったのかと自己嫌悪にさいなまれ、楽しいと思っていた子育てをつらく感じます。

 

いっぽうで、自分の子どもがトラブルに巻き込まれて、保護者が事態収拾に走り回らなければならないことがあります。子ども同士だけでなく、保護者同士も意見がかみ合わず、学校の仲裁も上手くいかず、子どものためにとは言え、歯がゆい思いを飲み込むことになることもあります。

 

スクールカウンセラーは、様々な立場と状況を俯瞰して、個別の問題解決だけでなく総合的な支援をデザインする能力とそれを戦略的に提案する能力のどちらも備える必要があります。