子どもを育てるのは本当に大変です。
成長期なので子ども自身が勝手に育っていく部分ももちろんあるわけですが、おおぜいの中での振る舞いや他者との関係構築の仕方を身につけるには保護者をはじめとする周囲の大人の働きかけが欠かせません。
いっぽうで、親になるのも本当に大変です。
我が子を授かってから自然に出来るようになることはもちろんあるわけですが、子どもが将来的に自分の力で生きていけるように関わるには何をすればいいのか、子育てをしながら考えなければなりません。
子育ては一方通行ではなく、保護者が「子どもの親」になっていくプロセスとも言えます。
子どもたちを見ていると、人間が持つ成長力の素晴らしさに感動することがよくあります。
小学校入学したての1年生は、あいさつの仕方から始まり、授業や宿題への取り組み方、集団生活における振る舞いなど、
新しいことばかりの環境に置かれて不安や緊張でいっぱいに見えます。
でも、秋ごろになるとどのクラスも独特の雰囲気が感じられるようになり、子どもたちはすっかり馴染んだ様子で過ごすようになっています。
中学生になると、ついこの間まで小学生だった子どもたちがすっかり大人びた雰囲気に大変身します。学習や人間関係など、それぞれ独自の考えが生まれてきて、自己理解が進むと同時に生き方への悩みなど人間の根本に目を向けるようになります。
生まれてからずっと身体面や知能面が発達していくのと同様に、心もさまざまに発達していきます。
その支えとなるのが表現力、理解力(解釈)であり、これらは主に学習を通して能力が高まっていきます。
学校生活や家庭において身に着けていくのは、生活習慣や利他感覚、対人関係などで、これらは将来に渡って個人を支えていきます。
子どもの成長は喜ばしいものですが、保護者にとって大変なことも生じます。そのひとつが、「10歳の壁」と呼ばれる時期です。
知的、精神的能力が発達すると同時に、子どもは自我を理解するようになります。他の子が出来るのに自分には出来ない、親から言われたことをすんなり受け入れられないなど、自分と「自分以外」を意識できるようになるからこそ感じられることが増えてきます。発達の階段をひとつ上るというふうにも言えます。
例えば、子ども自身が周囲との比較で自己嫌悪を持ったり、周囲から厳しく評価されたことで自信を無くしたりすることがあります。そうなると、まだ自己コントロール力が十分に発達していない子どもの心には、自分でもよくわからない反抗心、もしくは急にいろんなことが楽しくなくなって倦怠感が生まれたりします。
いっぽう、そのような子どもたちの様子を見る保護者の方は、「ウチの子、大丈夫?」という焦りや心配を感じることが多いようです。それまで素直でかわいかったのに「最近どうも扱いにくい。」という感覚に変わり始め、やる気や性格のせいにして何とか修正できないかと考えてしまいがちです。
でも、先にも触れたように、「10歳の壁」は子どもが自力で成長の階段を上がろうとする時期です。
子どもの言葉や行動にイラッとして怒りを表すのではなく、心配や焦りを抑えて実情をよく見ることが保護者の役目です。どのような言葉や行動がOKなのかを、子どもに具体的に伝えましょう。
子どもはまだ10年しか生きていません。対して大人はそれより長く生きており、その分の経験も知恵も持っています。
保護者は、子どもがまだ持ち合わせていないものを伝えたり、子どもが知らない振る舞いのモデルになれたりします。
反抗期は多くの保護者の悩みの種です。保護者も同じように反抗期を経ていることは多いと思われますが、いざ親になってみたら困るばかりです。
反抗期も、子どもの成長の証です。自分を主張できるようになり、気持ちを表現できるようになったと言えるのです。
世の中には自分以外にもたくさんの人がいることを実感し、自分自身や保護者を含めた他者の存在意義について考えるようになります。 理解が進まないとイライラしますし、受け入れられない気持ちになると悲しさや寂しさを感じたりします。
それらの感情をぶつけるのは、とりあえず保護者になりがちです。身近で、わがままが許される安心感があるからこそ、ハチャメチャなことすら言ってしまえるのです。
反抗期は、保護者の自己コントロール力が試される時期とも言えます。
だいぶ大きくなってきたと思ったのに子どもみたいなことを言われると腹立たしくなるのは当たり前ですが、その感情を怒りの形で子どもにぶつけないことが大事です。
反抗的な態度を取っていても、保護者の言うことは聞いています。むしろ、自分でよくわからない感情をどう表現するか保護者の言葉が参考になることもあります。聞いて欲しいとは言えないけれど聞いてもらっただけで気持ちが収まることもあるでしょう。
ただ、保護者も人間ですので、いつも自分の気持ちを抑えてばかりではつらくなります。
反抗期に限りませんが、子どもに対応するときは、できれば複数、例えば父母間、あるいは祖父母も含めて複数の大人が役割分担することが反抗期を乗り切るコツです。
また、反抗期は保護者にとってこれまでの人生で獲得した価値観を見直す機会とも言えます。まずは、子どもが自分なりの価値観を獲得していることを認めましょう。
子どもなりに獲得している価値観の内容についてはゆっくり考えるとして、まずは、子どもが独自の価値観を持ち始めたことを子育ての成果と捉え、子どもが自分らしさを育てていくのをサポートする段階に進んだというふうに考えてはいかがでしょうか。
子育てにつらさを感じるときは、まずは問題を整理してみましょう。子どもの問題と保護者の問題を切り離して考えると、具体的に出来ることが見えてきます。
子どもが抱える問題としては、学習、友だち関係、自意識などがあげられます。成績が伸びないと自信を失いがちになりますし、自信がないと人間関係もギクシャクします。
上手くいかないことが重なると「自分なんてダメだ。」とか「どうせできない。」など自分を否定するようになります。
子どもの自己否定に対しては、学習面では教職員、人間関係や自信喪失についてはスクールカウンセラーなど、学校と家庭が協働して対処していくことが大事です。
保護者だけで問題を抱え込まず保護者自身の感情面のケアを大切にすることが、子どもにも良い影響を与えます。
子育ては子どもと保護者の双方向の取り組みです。
子どもが問題を起こしたとき、子ども自身や周囲に影響が大きい場合は、まず叱る、諭すなどの態度を示して止めなければいけません。でも、繰り返し注意されたり後で蒸し返されたりすると、逆に反発心が大きくなってしまいます。
問題行動を止めたら、子どもといっしょに解決方法を考えてみましょう。 子どもの考えを聞いて気づかされたり、大人の考えを子どもがどう捉えるのかを聞いて言葉を工夫したり、保護者の学びにつながることも多くあるはずです。
子どもとしても、保護者がいっしょに考えてくれる喜びや安心を感じられます。
大事なのは、次につなげることです。もしまた同じ状況になったときどうするのか、子ども自身が考えることに保護者が知恵を加えることで、問題は子どもの成長の糧に変化します。
子育てではイライラすることもたくさんあります。イライラするのは、子どもの様子が保護者自身の価値観とズレているからと言えます。
保護者として絶対に許せない、子どもであっても絶対に許されないということはあります。逆に、保護者の価値観では許せるということもあるはずです。そのときの気持ちの持ちようによって許せたり許せなかったりということもあるでしょう。
このように保護者自身の許容範囲に目を向けてみると、保護者も自身の価値観を振り返らざるをえません。
子育てのプロセスは、まさに親としての成長プロセスとなるのです。