学生の頃、現場実習で出会った男の子の話です。
*児童養護施設で暮らしていたその子は、*軽度の知的障害があると言われていました。
楽しそうに遊んだり笑顔を向けて話したり、気持ちの優しい明るい子です。
でも、指導員さんたちの言うことをよく理解できなかったり違うことをやったりして怒られることが多い子でもありました。
ある日の夕食時間、その子が汁物のお椀をひっくり返して大きな声で怒られたときのことです。
怒られてびっくりして動きがとまってしまったら、「急いで食べなさい。」とまた怒られてしまいました。男の子はもう
どうしていいかわからなくなったのでしょう。席を立って部屋の隅で泣きはじめました。
指導員さんにとっては日常茶飯事だったのかもしれません。でも、どうしても放っておけず、近くに行って「大丈夫だよ。
戻ってご飯を食べよう。」と声をかけました。
それでも泣き続けるので背中をさすっていたところ、急に「お姉さん、僕を守ってくれてありがとう。」と小さな声で言って
立ち上がり、席に戻った後は何事もなかったかのように食べていました。
知的能力は十分ではないかもしれないけれど、「ああ、この子は人の気持ちを理解している。」と驚くやらうれしいやら。
人として大事なところが育っていると、改めて子どもが自ら育つ力を見直す思いでした。
その子のとは2週間ほどいっしょに過ごしましたが、それきりです。
今になって思えば実習生なのに出過ぎたことをしたのかもしれないという反省はありつつも、あの時の男の子のおかげで
「コドモのミカタになる。」という意志を持ち続けられていることに心から感謝しています。
*児童養護施設・・・児童福祉法に基づく施設で、保護者がいない児童や保護者が適切に監督保護できない場合に入所する。
*軽度の知的障害・・知的機能と適応機能が十分でない発達障害のひとつで、知能指数がおおむね50~70を軽度とみる。